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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(あ)5000号 判決 1954年12月23日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人青木義一の負担とする。

理由

被告人青木義一の弁護人内山秀吉の上告趣意は、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人井上勘一外一九名の弁護人岡崎一夫、同山内忠吉、同米村正一、同柿原幾男の上告趣意第一点について。

所論は、電車往来妨害の危険の発生の有無についての事実誤認を主張するものであって上告適法の理由にならないばかりでなく、原判決は、第一審判決が国鉄当局の業務命令に違反し、信号掛を脅迫して発車させたことが電車往来妨害の危険を発生せしめたこと及びその犯意の証明に十分でないとしたのを事実誤認であるとして破棄したに止まり、自ら危険が発生したと認定したものではないから、事実誤認の主張は、失当である。

同第二点について。

所論は、違憲をいうが、原判決が偏見の結果であるとは記録上全くこれを認めることができないから、その前提を欠き採用の限りでない(なお昭和二三年五月五日大法廷判決刑集二巻五号四四七頁、同二三年一一月一七日大法廷判決刑集二巻一二号一五六五頁参照)。

同第三点について。

所論は、公共企業体労働関係法第一七条の違憲を主張するのであるが、仮りに紛争処理機関の発足前は同条が所論のごとく違憲であり、従って争議権労働関係調整((同法六条、七条参照))が認められるとしたところで、争議権の行使は社会通念上許容された限度を超えることを許されないこと当裁判所の判例であって(昭和二八年六月一七日、刑集七巻六号一二八九頁等)、本件のように国鉄当局の業務命令に違反して禁止された電車を運転し、而もその出発に当って多数の威力を用いて信号掛を威嚇したか否かの問題は、右限界を超えること明らかな犯罪成否の問題であるといわなければならない。然らば右違憲の主張の当否は判断をする必要のないことであるから、これについては判断を与えない。

被告人井上政吉外九名の弁護人佐藤一馬、同桃井次の上告趣意第一点について。

所論は、原判決が大審院判例と相反する判断をしたというのであるが、挙示の判例は、本件の場合に適切なものといえない。

また、原判決は刑法一二五条を抽象的危険犯と解したものでないこと明らかであるから、所論は失当である。

同第二点について。

所論は、事実誤認の主張であって、その失当であることは、前記岡崎弁護人等の上告趣意第一点に対する判断において示したとおりである。

よって刑訴四〇八条に従い被告人青木義一については同一八一条をも適用し裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野 毅 裁判官 入江俊郎)

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